耐震基準

今回の震災では、地震と建築の耐震性について、いろいろと勉強することができました。阪神大震災の時には、これほどではありませんでした。ネットが発達したおかげで、たくさんの情報に接することができ、新たな認識を得ることができました。
その中で一番重要だと思われるのは、新耐震についてです。以前は、新耐震以前(旧耐震=1981年以前)に建てられた建物だから危険、新耐震(1981年以降)で建てられた建物だから安全、というような荒っぽい議論が行われていました。たしかに今回の震災で壊れた建物の多くは、旧耐震で建てられた建物だったのですが、新耐震で建てられた建物も壊れています。
旧耐震の建物は築30年以上の建物で、老朽化も考えられますから、大きな地震で多くの建物が倒壊しても、不思議ではありません。しかし、新耐震で建てられた建物は新しいわけですから、それが倒壊したとすれば、それは単に弱い建物だったということです。「新耐震だから安全」などとは、決して言えないのです。
大阪府の橋本知事が、府庁舎をWTC(ワールド・トレード・センタービル)に移転しようとしているのですが、そのためには耐震補強が必要だということが分かってきました。もちろん、WTCは新耐震の建物ですが、大きな地震が発生すると、残留変形が残るということです。要するに傾いたままになってしまい、エレベーターが使えなくなってしまうのです。耐震補強というと、旧耐震の建物と思いがちですが、新耐震でも補強の必要な建物があるということです。
そもそも、旧耐震と新耐震の違いは何なのか、よく分からないのです。単に基準が厳しくなっただけで、根本はどちらも同じ、そんな気がします。基準が厳しくなればより安全になりますが、それ以上の地震が来る可能性は常に残るわけで、根本的な解決にはなりません。要するに、地震についてよく分かっていないからこうなってしまうのです。
建築基準法の問題点も指摘されています。建築基準法は、最低限の基準であって、決して推奨される基準ではないからです。きちんとした設計事務所や設計者は、基準法によらない独自の基準で設計しているのが普通です。しかし、世の中には基準法ぎりぎりで設計する人達もいます。また、それを求める施主もいるわけです。それが経済的であるとされ、それ以上の設計は、過剰設計とされてしまうこともあります。最低基準が、最適基準と誤解されてしまっているのです。
そもそも、地震と建物被害との関係もよく分かっていないのです。それが、今回の地震ではっきりしたと思います。阪神大震災では、多くの建物が倒壊しました。それと比べると、地震のエネルギーは1000倍も大きかったにもかかわらず、今回の地震で直接大きな被害を受けた建物が少なかったことは、皆さんの知るところだと思います。私も我国の建物の耐震性はすばらしい、と喜んでいたのですが、実際はちょっと違うようなのです。
今回の地震は、特殊(?)だったらしいのです。それで被害が少なかったようなのです。地震波のデータから、地震と建物被害について、今までの考え方に対する疑問も出てきました。その結果、実は新耐震もだめで、新しい耐震基準が必要だという議論が起こってきました。このあたりに関しては、次回書きます。
自然の力は、人間の力や想像力を超えているのです。自然をねじ伏せようとしても、それが不可能なことを思い知ったはずです。だとしたら、発想を変えなければいけないわけです。柔道の練習は「受身」から始まります。自然に対しても「受身」からはじめるのはどうでしょうか。