東京オペラシティ
もう先月の話になるが、初めて東京オペラシティに行った。前を通ったことは何度もあるのだが、興味もあまりなかったし、いい印象もなく、特別行く機会もなかったため今回が初めてとなった。今回なぜ行くことになったかというと、建築家・伊東豊雄の「建築|新しいリアル」展をオペラシティ内のアートギャラリーでやっていて、その招待券を貰ったからである。この展覧会にもそれほど興味がなかったが、せっかくだから出かけることにした。
展覧会自体は特別興味をそそられるものではなかった。アイディア自体に新味はなく、すべて何十年も前からある。当時はそれを実現するのが難しかったが、現在では構造解析の新しい方法(非線形)が出来たため、実現可能になったに過ぎない。表現についても、なぜか1960年代後半に英国で活躍した「アーキグラム」を連想してしまうし、曲面屋根はフライ・オットー以来さまざまな試みがされている。それが割りと簡単に出来るようになっただけだ。ただし、実際の鉄筋の配筋を再現した展示は面白かった。
東京オペラシティは隣の「新国立劇場」と一体の建物で、1986年に国際コンペで案が決定し、1997年に完成している。コンペ当時からさまざまな批判があった建物だ。当時は多くの国際コンペや国内コンペがあり、私もその中のいくつかの参加した経験がある。東京フォーラムなどの巨大コンペも多かった。ものすごい床面積の巨大建物で、なぜこんなに大きくなければならないのか疑問だった。また、要求されている機能を全部入れると確実に面積がオーバーしてしまうという、なんとも貧乏くさいコンペがほとんどだった。パリの「日本文化センター」や大阪の「平和資料館」などその代表だ。このコンペもご多分に漏れず、巨大で詰め込めるだけ詰め込むという貧しいコンペだった。コンペ案と実現した建物とはかなり違っていると思う。
東京オペラシティは「新国立劇場」コンペ(皆は「第二国立劇場(略して二国)」コンペと呼んでいた)として行われたものだが、当時まず敷地の立地が批判の的だった。なぜ現在の場所なのかという疑問。立地的なメリットのない敷地。現在も高速道路の工事をやっているが、インターチェンジが3層になって、道路に覆いかぶさっている。それだけで気の滅入るような場所だ。その時点でアウトだね。
このコンペは一等になった案が大手ゼネコン設計部の案であったことが問題となり、その後のコンペにさまざまな影響を与えた。このコンペの当選者はゼネコンを退社し、新たに設計事務所を設立しなければならなかった。これ以降、ゼネコン設計部のコンペ参加を禁止したり、一等案になったゼネコンは工事入札に参加できないなど制限を設けたコンペが多くなった。
建物自体の印象は、一言で言って特にない。以前、「ヘタウマ」という言葉が流行った時に、誰かが「ウマヘタ」というのもあると書いていたが、この建物はそれがぴったりというところか。部分部分を見るとよく出来ているのだが、全体を見るとばらばらでちぐはぐ。なぜこのデザインとこのデザインが共存しているのか、全くテイストの違うデザインが無造作に並んでいたりする。素材についても同様。デザイナーのセンスがないのか、全体をまとめる能力がなかったのか、トータルなイメージの想像力が足りなかったのか、そんなところか。建物が巨大すぎた・・・。それに時節柄クリスマスのデコレーションまで付いていて、その感がいっそう強くなる。
ただし見た範囲での話であり、劇場などの中は見ていないので、そこはなんともいえない。いい劇場なのかもしれない。東京の大きなごみのひとつとも言われているので、あながち間違いではないと思うのだが。
「新国立劇場」と東京オペラシティとの間にある大階段の屋外ホールはCMにも使われて知ってる人も多いと思うが、このスペースは写真写りはよいのだが、上を見上げるとがっかりしてしまう。あのボールト天井は何とかならないか。素材感の問題?。このスペースにたくさんの人間がたむろして、皆タバコを吸っている。この光景は異様だ。巨大な喫煙スペースと化している。
東京オペラシティの隣に道を挟んでNTT東日本の本社ビルが建っている。こちらの方がいい建物だ。半円形平面の高層棟と低層棟が面白い角度で配置されている。シーザ・ペリと山下設計のジョイントによるものだが、いいデザインだと思う。低層棟はマリオ・ベリーニのパクリみたいだが、まあいいか。