アルハンブラ宮殿

BS放送アルハンブラ宮殿を見ました。番組自体はスペインのイザベル女王についてのものでしたが、内容の半分はアルハンブラ宮殿についてでした。
アルハンブラ宮殿は、本当に美しいですね。世界で一番美しい建物と言ってもいいと思います。それも、いろいろな美しさがあるのですね。何でこんなに美しいのだろうか、と考えてしまいました。
有名な中庭、この美しさは、完璧と言ってもいい美しさです。この美しさは完全に比例(プロポーション)の美しさです。プロポーションというのは不思議なものですね。なぜ、美しいプロポーションとそうでないプロポーションがあるのか。そして、美しいプロポーションには、完全さをも感じてしまうのですね。宇宙の根本原理のような。
中庭に囲む壁と回廊状のファサードは、純粋に中庭を美しく見せるための、ある意味では装飾です。舞台の書割のような。ただただ完璧な比例を求めたとしか思えない。下屋の軒との間にスリットが取られていて、それが強調されている。建物上部の何層かに分割された水平の壁面と屋根のプロポーションも完璧だ。すばらしい。
それとアルハンブラと言えば水ですね。イスラム建築は乾燥地帯から発生したものですから、水は特別なものなのです。必ず水盤があって水が流れる、これは決まりごとといってもいいものです。キリスト教修道院の中庭には必ず井戸があり、パラダイスと呼ばれています。これもイスラム建築の影響です。
水のある風景は美しいですね。樹木や花などと同じように、自然があることによる美しさです。しかし、この中庭には植栽はありません。具象性を排するイスラム建築だからでしょうか。私は、植物は成長するし、葉を落としたりして形が変わるから、それを嫌ったのではないかと思うのです。プロポーションが変わってしまいますからね。完璧に剪定された鉢植えが置かれていたのではないかとは思いますが。ですので、水があっても噴水はないわけです。噴水は水圧が変わっても風が吹いても形が変わってしまいますからね。
ところが、一山離れたところにある離宮の中庭には、噴水も植栽もあるのです。これも美しい中庭です。番組ではキリスト教文化の影響のようなことを言っていましたが、こちらの方が本来のパラダイスのような気がします。私はこちらの方が好きだなあ。
実は、私がアルハンブラで一番美しいと思うのはこのどちらでもないのです。私が一番好きなのは、向かいの山から見たアルハンブラ宮殿の全景です。この美しさに最も惹かれます。アルハンブラ宮殿は増築を繰り返して創られているので、この景色は意図したものではなく、結果として出来上がった美しさなのです。偶然の産物と言えます。しかし、この美しさには偶然というより、必然性を感じてしまいます。
もちろん、偶然が常に美しいものを作るわけではありません。なぜこのような美しさができるのか、その秘密が知りたいですね。ここにあるのは、完璧さを求める美意識とは全く別物の美しさの感覚があるのです。しかし、不完全の美しさというのとは違うような気がします。とても魅力的だ。
アルハンブラ宮殿の職人は、完璧なものは神だけが可能なのだとして、何処かに不完全な部分を作ったというのですが、この遠景の美しさを見ると、全く別の感情を持つのです。完璧を求めるのは人間で、神は美を求めるが完璧は求めないと。