新国立競技場コンペ

kokuzo2012-11-18

久しぶりに建築の話題を書きます。先日、新国立競技場のコンペ結果が発表されました。公開国際コンペだったのですが、期間が短く、参加資格の制限も厳しく、ごくわずかの建築家しか参加できないものでした。コンペ自体、なんか唐突な感じがなきにしもあらずという印象でしたが、久々のコンペだったので、注目度は高かったようです。
実は、我が国では最近はほとんどコンペが行われていません。なんでもコンペをやればいいというのではないですが、ちょっと寂しいですね。以前は私のような無名で実績のない者でも、一級建築士の資格を持ってさえいれば、大きな国際コンペにも参加できたものでした。
最近の大きなプロジェクトの多くがコンペではなく、プロポーザルという形をとっています。コンペほどハードではないというのがその理由なのですが、参加する側にとってはどちらもあまり変わらないですね。それに、プロポーザルの場合はほとんどが指名になるので、参加できる設計事務所は限られてくるのです。その結果、参加者リストには常に同じ名前が並ぶわけです。
今回のコンペは、設計者を選ぶというのではなく、設計原案を選ぶというもので、設計者の選定はまた別に行われるのです。もちろん選ばれた案の提出者が設計に参加することになるのですが、主力は組織設計事務所になるのでしょうね。これ自体は特別なことではありません。
さて、コンペの結果ですが、一等案に選ばれたのは、英国を拠点に活動しているイラン出身の女性建築家ザハ・ハディドのものでした。他の案より傑出していたので、この結果は順当だと思います。外国メディアからは自転車ヘルメットなどと言われていますが。
私がまだ学生だった頃、ザハ・ハディドは衝撃的なデビューをしました。その時の作品のすべては、実際に建った建物ではなくプロジェクトでした。当時はアンビルド・アーキテクトの代表のような人でした。ハディドが設計・デザインした建物が実現したのは、かなり時間がたった後です。
ハディドのプロジェクトは、誰が見てもすぐハディドだとわかるものでした。とにかくそれがすごいですね。特徴はスピード感です。ハイスピード感と言った方がいいかもしれません。
1920年代のイタリアに「未来派」というグループがありました。自動車や鉄道ができ、世の中がスピード感に溢れた時代に、それにふさわしい表現を追求した前衛芸術運動でした。アントニオ・サンテリアの駅のプロジェクトなど魅力的な計画案がありました。ハディドのプロジェクトは、それをさらに高速化したような感じです。
ただし、その当時は、私は周囲が騒ぐほどハディドを評価していませんでした。なぜかと言うと、結局、建物は動かないのですから。スピード感と言っても、それは単に絵の中だけのもので、実際に建った建物にそのような感覚を期待できないのがわかっていたからです。言ってみれば、子供が新幹線の絵を描く時、スピード感を出すためにぴゅっぴゅっと風の線を描くのと同じように思えたのです。
最近は実作が増え、実際に建った建物を見ると、ハディドをいいなと思うようになってきました。建たなかったプロジェクトの方が実作よりいいと言う人もいますが、私はそう思いません。絵としては面白かったですが、建築としては興味なかったですね。
今回の案は、屋根を支える竜骨のような二本の構造体が美しい曲線を描きながら左右に延び、それが力学的な力の流れを表しながら、スポーツのスピード感と流動性を印象付けています。正統派の建築ですね。魅力的です。


しかし、実際にできるのでしょうか。なんかあまり熱意を感じないのです。これから設計者を決め、基本設計をやり、その後に実施設計を行い、施工者を決定し、やっと工事がはじまります。2019年に行われるラグビー・ワールドカップに間に合わせる必要があります。期間的にはギリギリという感じです。総工費として1300億円を予定しているということですが、そのお金をどこから出すのでしょうか。きちんと確保できているのでしょうか。やるならば、はっきりとその意志と熱意と具体的なスケジュールを示して欲しいですね。