明石小学校の建替え問題

先日、中央区の明石小学校の建替えに関するTV番組を見ました。その前に新聞でも紹介されていたと思います。明石小学校を建替えのため取り壊そうとしている中央区と、保存を望む地域住民との間での対立があります。
明石小学校は、関東大震災後の復興事業として建てられた鉄筋コンクリート造の建物で、当時の趣を持った良い建物です。震災復興のために同じ頃建てられた建物として、同潤会アパートがあります。同潤会アパートも良い建物でしたが、ほとんどが建替えられてしまいました。両者には共通した趣があります。
私は、何でも保存すればよいとは思いませんが、何でも建替えればよいとも思いません。建物の場合、保存と言っても、多くの場合、博物館のガラスケースの中に納まっている美術品などとは違い、何らかの形で活用されるわけで、そのためのリノベーションが必要になります。建物は常に生きていなければ価値がありません。
今回一番問題だと思うのは、建替えなければならない理由がはっきりしないことです。建替え理由に対する区の説明もコロコロ変わっているようです。要するに建替えの理由自体が存在しないのです。理由があるとすれば、区が決定したからということでしょう。
区が示した建替え理由には別の問題もあると思います。最初に示された理由は耐震性に対するものだということでした。ところがその後、耐震レベルはAということで建替え理由からはずされたということです。ここで私が問題だと思うのは、関東大震災後に建てられた築80年以上経つ鉄筋コンクリート造の建物の耐震性がAということは、本当にありうることだろうかということです。
かつて築50年たつ鉄筋コンクリート造の巣鴨刑務所が解体された際、コンクリート自体にはほとんど構造的な強度がなかったという調査が出ています。だとすれば、築80年以上の鉄筋コンクリートにどれくらいの強度があるでしょうか。それを、耐震レベルAだと言う根拠はどこにあるのでしょうか。きちんと検査をしているのでしょうか。最初から建替えありきで、ろくな調査もしていないのではないでしょうか。だとすれば、いい加減このうえもないということになります。
しかし、ここに別の疑惑を感じています。建替えの本当の理由はやはり耐震性にあるのではないか。耐震性に問題があることが分かっていて、それを理由にできないわけがあるのではないか。ということです。
同じ頃建てられた鉄筋コンクリート造の小学校で、保存された建物があります。それは泰明小学校といい、銀座5丁目の交差点近くにあるため、御存知の方も多いと思います。泰明小学校もかつて取り壊される予定でした。卒業生に多くの有名人がいて、政治的な圧力もかなりあったのでしょう、一転して保存されることになりました。
明石小学校に耐震性の問題があるならば、同じように泰明小学校にも耐震性の問題があるはずです。それを隠蔽するため、建替え理由から耐震性が消えたのではないかということです。泰明小学校が保存されるということを聞いた時、同じような疑問を感じたことを、今、思い出します。


我が国は民主主義の国ということになっていますが、多くの行政は全く民主的ではありません。その上無責任で怠け者だとしたら、この国がよくなることなど望むべくもありません。さらに多くの役人や官僚が無教養で、哲学も価値観もない。このような貧しい人間が権力の一端を担うということは恐ろしいことです。